UnBooks:M8

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銃英社出版

28歳の若き合衆国海兵隊少尉、マットレイの小隊は新型のM8自動小銃が貸与され、アフガニスタンでの治安維持任務に当たっていた。十年前のイラクでの戦争、あのとき自分は何もできずに戦友を失った。同じ悲しみは繰り返したくはない。今、行動を起こさなければ……。

ペンタゴンやホワイトハウスがテロとの戦争に力を注ぐ中、一兵卒の発言を誰が受け入れるか。武装勢力の待ち伏せ攻撃の前に奔走する兵士たち。そして、とうとう頼みの綱であるM8小銃さえも牙をむく。戦場を何も知らない高官たち。戦場であらゆる状況に対処する兵士たち。

「M8」ではXM8がM16に変わりアメリカ軍の制式小銃となったパラレルワールドを描き出す。 試験が十分に行われずに採用された新型の銃器が実戦に配備されたら、銃は、兵士は、戦況はいったいどうなってしまうのか。マニアの観点に基づいてシミュレーションされた衝撃の作品。

第一章 予感[編集]

 アメリカ合衆国海兵隊、第八海兵隊遠征隊チックパトロール小隊。混沌とするアフガニスタンでの治安維持活動が彼らの任務だ。チックパトロール小隊は2台のハンヴィー(高機動多用途装輪車両)で荒野を移動し、ルートの安全を確保する。


 チックパトロール、マットレイ小隊の面々には今回の任務に新しい小銃が貸与された。M8はアメリカ軍の次期制式自動小銃としてドイツのヘッホラー&コッケ社で開発された5.56mm口径のライフルだ。強化樹脂が多用されており、軽量である。

「プラスティックはどうも信用できないね。金属なら多少変形しても叩いて直せるけど、コレじゃ割れちまう。接着剤とパテも持っていかなきゃ」

力自慢のロッキーは軽い新型の小銃に不満をぶつける。 「ローラーセイフティかよ。割れそうだな。俺、MP5のセイフティ(安全装置)壊したことある」


 安全装置、コッキングレバー、マガジンリリースは左右どちら側でも操作が可能だ。

「人差し指で下に向かって押すのはやっぱり慣れないな」

ローディは小柄な海兵だ。銃に何度もマガジンを装てんしては外し、その操作に少しでも慣れようとしていた。


 M8は多機能先進サイトモジュール(ISM)は、ドットサイト式赤外線ポインタ、4倍率の光学照準、赤外線照射装置を装備する。

「オプティカルサイトだけ?壊れたらどうやって撃つんです?」

エイムズは部隊内で最も優秀な射撃手だった。M8に変わってからというものスコアがのびない。マットレイは答えた。「レーザーサイトがあるだろう」 エイムズは納得しない。「レーザーも壊れたらどうします?」 マットレイにはこう答えるしかなかった。

「自分を信じろ」


 M8はピカティニーコンバットアタッチメントポイント(PCAP)という新しいマウントシステムが採用されている。被筒の両側に楕円形の穴が並ぶ。この穴に専用のライトなどのモジュールを装着する。 「見てみろよ、この穴。まるでマンコだ」 50口径の機関銃を担当するサンダース曹長は人事のように冗談を言ってみせた。 「俺にはこんなマンコ銃はいらない、50(フィフティー)でふっとばすだけよ」


「カール大尉、M4を使わせてください。皆、慣れない銃を手に不安になっています」

カール大尉はマットレイの具申を受け付けなかった。 「与えられた仕事をこなせ、マットレイ少尉」

 新任のマットレイはこのとき知る由もなかった。なんとしてでも自分の意見を通すべきだったと。

第二章 悪夢[編集]

 ドーンという音を聞いた。

 全身にアドレナリンが溢れ、銃口が水平に向けられる。額に汗が吹き出て息は荒くなる。目を開けると黒煙が見える。車体の前方からオレンジ色の炎がヘビの舌のようにちらちらと飛び出している。逃げろ、逃げるんだ!皆撃ち殺されるぞ!マットレイは必死で叫んだ。

 前を走っていたアルファ分隊のハンヴィーは業火に焼かれていた。RPGの直撃を受けたのだ。もう誰も助からない。マットレイの車輌もエンジンが燃え始めていた。機関銃手のサンダース曹長は即死だった。

 ロッキーの反応は完璧だった。爆音と銃声を聞くや否や間違いなく安全装置をセミオートの位置にあわせ引き金を引いていた。しかし、安全装置は機能したままだったのだ。安全装置の内部が破損し、外側だけがセミオートの位置にあったのだ。安全装置が、せめてローラー式の安全装置でなければ最初のひとりを倒していたはずだった。ロッキーはすぐにM9ピストルに切り替えて応戦しようとした。その間にロッキーはゲリラの銃弾を上半身に浴びて倒れた。

 エイムズの反応は完璧だった。射撃してくる敵の方向に間違いなく応射していた。しかし、銃弾はわずかに上に反れたのだ。衝撃で車体にサイトをぶつけ破損したのだ。ガラス面にひびが入り照準器は機能しなくなった。サイトが、せめてアイアンサイトがあればエイムズは敵のひとりを倒していたはずだった。エイムズはM16であれば射殺していたであろうゲリラの銃弾に頭を撃ち抜かれ倒れた。

 ローディの応戦は完璧だった。敵にセミオートで正確に撃ち返していた。しかし、銃は突然マガジンを吐き捨てた。ローディの人差し指が複雑で敏感すぎるマガジンリリースにわずかに触れたのだ。マガジンリリースが、せめてマガジンリリースが引き金から離れていればローディは射撃を続け敵をけん制できたはずだった。ローディは突然のトラブルに冷静に対応したが、マガジンを装てん中にゲリラの銃弾を受けて倒れた。

 地面に放り出されたM8。カーキ色のM8は砂地に紛れすぐには見つからなかった。爆発と銃弾が掘り返した砂で埋まったM8をマットレイは掘り出した。堀り出され砂まみれのM8をマットレイは茫然と見つめた。 目に入るのは炎上したハンヴィー、全身をどす黒く染め動かなくなった部下たちの姿だけだ。

第三章 焦燥[編集]

 マットレイは黒コゲになったハンヴィーに身を隠し、敵に向かって撃ち続けた。前方からは無数のゲリラがマットレイに向かって撃ってくる。思わず身をすぼめる。だが、撃たなければ殺られる。マットレイは撃ち続けた。M16より反動は軽い。しかし、その軽さがマットレイを不安にさせた。本当に俺は今撃っているのか?

 永遠とも思われる長い時間に感じられた。サイトは熱気で曇り、狙いを定めにくくなった。マガジンは3回交換した。異変は起きた。引き金を引いても弾が発射されなくなった。マットレイはジャミングの排除に取り掛かった。空の薬きょうが細長い排きょう口を塞いでいた。大粒の砂が噛んだのだ。コッキングレバーを何度も前後させようとしたが、2000発の連続射撃でメンテナンスも必要としないはずのボルトは動こうとしない。M16ならノブを押し込んで、強制的にボルトを閉鎖して射撃をできたはずだった。

 マットレイが射撃を止めると、敵の射撃も止んだ。終わりだ。やつらは戦果を確認にしにくるだろう。やつらは俺を捕虜にするだろうか?いや、拷問されて生き地獄を見るよりは殺されたほうがマシだ。マットレイは命を預けるには軽すぎたM8を捨てた。目をつぶって過酷な運命を受け入れようと決めた。

第四章 願い[編集]

 ドーンという音を聞いた。

 臆病者どもめ、ここにいるのは無抵抗な俺一人だぞ。オーバーキルもいいところだ。そう思うと、今度は凄まじい量の銃声が聞こえてきた。目を開くと、視界にはカーキ色のマンバトラックが何台も何台もやって来る。見上げると、真っ黒に染まった空の中をブラックホークが轟音を上げて飛んでいた。虚ろな意識の中、カール大尉の声だけははっきりと覚えている。

「おかえり、マットレイ少尉」

マットレイは言った。

「カール大尉、M4を使わせてください。そして、ドムズフェルラ国防長官に伝えてください。私たちを見捨てないでと」

しかし、カール大尉はそれを聞くと肩を落としてこう言った。

「M4は全部壊れてしまったんだ。これでよければもっていけ。」

砂塵に弱いM4は輸送中に使用不能になっていたのだ。マットレイは項垂れるしかなかったが、カール大尉が差し出した銃を見て驚愕するほか無かった。 そこにあったのは、50年も前に捨てられたはずのM14だった。 いや、そう呼べるかどうかも怪しい。再設計された7.62mm小銃といわれても彼は納得しただろう。伸縮可能なストックにグラスファイバー製のRIS搭載フレームはガーランドの影響を色濃く残すM14とは別物だったからだ。

「そんな、M14はずっと前に・・・」 「俺達は忘れていたんだ。ベトナムの時何度も命を助けられた相棒のことを。M14からM16に変わったとき、俺も部下を大量に失った。」

海兵隊の魂を刻み込んだM14をマットレイは持ち、その重さをかみ締める。傷だらけの銃身から、それがベトナム戦争から活躍していた銃だということは容易に想像がついた。

「戦場で頼れるのは最新技術ではない。どんな場所でもまっとうに動く銃だ。それに時代など関係ない。」

あとがき[編集]

男として、合衆国に住む者として、兵役を志した者として、書いておかなければならない小説、それがM8です。この本を読んで、少しでも銃を理解し、そのために生き残ることが出来たという兵士が現われれば幸いです。