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出典: へっぽこ実験ウィキ『八百科事典(アンサイクロペディア)』
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きょう、ババアが死んだ。

きのうだったかもしれない。おとといだったかもしれない。正直、よく覚えていない。

頭頂部から流血して死んでいた。身体にはいくつか打撲の跡があった。

階段から転げ落ちて死んだのか、それとも私が殴り殺したのか。

そもそもここはアパートの一室で、階段なんかないじゃないか。

記憶が全くない。これでは何もわからない。

ただ一つ推察されることは、このまま事が露見すれば私は母親の頓死の重要参考人として警察の尋問を受けること、

そして、ババアの死が自治体に認知されれば私はババアの年金の恩恵に浴せなくなるということだ。

隣室から女の叫び声が聞こえる。そう言えば、隣室の住人は女衒を生業としているらしい。今までも何人か女とトラブルを起こしていた。警察沙汰もあった。

しかし、そんなことは私にはどうでもいい。

三日前、中高時代の同級生の女と再会したことを思いだした。彼女は容姿は優れていたから、とっくに結婚していたと思っていたが、独身だった。

独身だったが、処女とは限らない。性格が悪いという話は聞かなかったし、学生時代特に私に意地の悪いことはしてこなかったが、

あの手の女は薄汚い本性を持っていると相場が決まっている。おそらく本性は娼婦であろう。そうに違いない。

意外なことに向こうから話をしかけてきた。私は彼女が私を籠絡しようとしていると迅速に、鋭敏に察知して、適当に会話して別れたのだ。

己の要領のよさ、敏感さに感心した。

しかし、そんなことも私にはどうでもいい。

兎角、今はババアの死を隠匿しなければならない。

死亡届を出せば、ことは収まる。しかし、窓から差し込む日光が、私に第三者にババアの死を告知することを逡巡させた。

私は冷たくなりつつあるババアの亡骸を抱え、とりあえず押し入れに隠蔽しようとした。防腐剤も用意しなければならないが、今は押し入れに隠蔽するので精一杯だ。

痩せこけたババアの身体は想像以上に重かった。あるいは私の筋力が不足に過ぎているだけか。

私は何とか、ババアの亡骸を押し入れの中に放り込むことに成功した。

疲労と、窓から射してくる陽の光で、頬が焼けるようだった。眉毛に汗の滴が溜まるのを感じた。

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