UnBooks:記事の多いウィキペディア

出典: へっぽこ実験ウィキ『八百科事典(アンサイクロペディア)』
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二人の若い百科事典アンサイクロペディアチャクウィキ)が、すっかりまじめな百科事典のかたちをして、ぴかぴかするポテトをかついで、オスカー・ワイルドのような犬を二疋(ひき)つれて、だいぶインターネットの、キーボードのかさかさしたとこを、こんなことを云(い)いながら、あるいておりました。 「ぜんたい、ここらの百科事典は怪(け)しからんね。記事もログイン者も一疋も居やがらん。なんでも構わないから、早くタンタアーンと、見たいもんだなあ。」 「ウィキペディアの黄いろな横なんぞに、アカウント作成もうしたら、ずいぶん痛快だろうねえ。くるくる記事を書いて、それからやりすぎて倒(たお)れるだろうねえ。」

それはだいぶネット界の奥でした。案内してきた専門のキーボード打ちも、ちょっとまごついて、どこかへ行ってしまったくらいの奥でした。それに、あんまりネットが物凄(ものすご)いので、そのオスカーのような犬が、二疋いっしょにめまいを起こして、しばらく脳内はポテトになり、それから暴言を吐いて死んでしまいました。 「じつにぼくは、二千四百人の荒らしだ」と一人のアンサイクロペディアが、その犬の眼(ま)ぶたを、ちょっとかえしてみて言いました。 「ぼくは二千八百人の荒らしだ。」 と、チャクウィキが、くやしそうに、あたまをまげて言いました。

はじめの百科事典は、すこし記事を解除して、じっと、もひとりのチャクウィキの、記事を見ながら云いました。 「ぼくはもうアンサイクロペディアンに戻(もど)ろうとおもう。」 「さあ、ぼくもちょうどギャグは寒くはなったし腹は空(す)いてきたしポテトでも食べようとおもう。」 「そいじゃ、これで違うページにいこう。なあに戻りに、昨日(きのう)の日本さいころペディアで、変な記事も解除して帰ればいい。」 「IPユーザーもでていたねえ。そうすれば結局おんなじこった。ではもう戻ろうじゃないか」

ところがどうも困ったことは、どっちへ行けばアンサイクロペディアに戻れるのか、いっこうに見当がつかなくなっていました。 荒らしがどうといて、解除依頼はざわざわ、どうしようもない記事はかさかさ、管理者はごとんごとんと怒る百科事典につきました。 「どうも記事を解除したい。さっきから横っ腹が痛くてたまらないんだ。」 「ぼくもそうだ。もうあんまり違う所へいきたくないな。」 「あるきたくないよ。ああ困ったなあ、何かたべたいなあ。」 「解除したいもんだなあ」 二人の事典は、かちかち鳴るキーボードの中で、こんなことを云いました。

その時ふとまえを見ますと、いかにもオタクっぽい一軒(いっけん)のパズルピースの家がありました。 そして玄関(げんかん)には

Encyclopedia

フリー百科事典

Wikipedia

ウィキペディア

という札がでていました。 「君、ちょうどいい。ここはこれでなかなかきっと解除できるんだ。アカウント作成しようじゃないか」 「おや、記事がオタクっぽいね。しかしとにかく何か解除ができるんだろう」 「もちろんできるさ。看板にそう書いてあるじゃないか」 「アカウント作成じゃないか。ぼくはもう何か解除したくて倒れそうなんだ。」 二人はメインページに立ちました。玄関は寄付のお願いがしつこくで書いてあって、実に立派(?)なもんです。

そして検索マシーンの開き戸がたって、そこに黒文字でこう書いてありました。 「ウィキペディアにようこそ!ウィキペディアはオープンコンテントの百科事典です。」 二人はそこで、ひどくよろこんで言いました。 「こいつはどうだ、やっぱり世の中はうまくできてるねえ、きょう一日なんぎしたけれど、こんどはこんないいこともある。このうちは百科事典だけれどもただで解除するんだぜ。」 「どうもそうらしい。オープンコンテントの百科事典ですというのはその意味だ。」

クリックして、なかへ入りました。そこはすぐ記事になっていました。その硝子戸裏?の側には、金文字でこうなっていました。

基本方針に賛同していただけるなら、誰でも記事を編集したり新しく作成したりできます。

誰でも編集できるというので二人とも大喜びです。 「君、僕らは大賛同なのだ。」 「両方兼ねているからね。」

ずんずんページを進んで行きますと、こんどは水いろのペンキ塗(ぬ)りの扉(と)がありました。 「どうも変な百科事典だ。どうしてこんなにページがあるのだろう。」 「階層型カテゴリさ。記事量の多い百科事典はみんなそうさ。」

そして二人はその扉をあけようとしますと、上に黄いろな字でこう書いてありました。

当軒は記事の多い百科事典ですからどうかそこはご承知ください

「なかなかはやってるんだ。こんな山の中で。」 「それあそうだ。見たまえ、2ちゃんねるだって目立つとこには開かれてないだろう。」

二人は云いながら、その扉をあけました。するとその裏側に、

「記事はずいぶん多いでしょうがどうか一々こらえて下さい。」

「これは一体どういうんだ。」チャクウィキは顔をしかめました。 「うん、これはきっと記事があまりにも多くてページを辿るのが大変だろうけどそこは勘弁してくれとこういうんだ。」 「そうだろう。早くどこかアンカウント作成のページにはいりたいもんだな。」 「そして解除したいものだな。」

ところがどうもうるさいことは、また扉が一つありました。そしてそのわきに二つの窓がかかって、その上にはアカウント作成のリンクが置いてあったのです。 扉には赤い字で、

お客さまがた、ここでアカウントをきちんと作成して、それからウィキペディアにログインしてください。

「これはどうも尤(もっと)もだ。僕もさっき玄関で、山のなかだとおもって見くびったんだよ」 「作法の厳しい百科事典だ。きっとよほど偉(えら)い執筆者たちが、毎日来るんだ。」

そこで二人は、きちんとした名前でアカウントを取得し、ログインしました。

そしたら、どうです。次のページに行くや否(いな)や、「あいさつ同好会」という旗があらわれて、ようこそテンプレートがどうっと室の中に入ってきました。 二人はびっくりして、互(たがい)によりそって、扉をがたんと開けて、次のページへ入って行きました。早く何か面白い記事でもたべて、元気をつけて置かないと、もう途方(とほう)もないことになってしまうと、二人とも思ったのでした。 扉の内側に、また変なことが書いてありました。

「ようこそ、チャクウィキさん、アンサイクロペディアさん、ウィキペディアにようこそ。」

見るとすぐ横にさっきのテンプレートがありました。 「なるほど、新人に挨拶するのはもっともだ。」 「いや、よほどすごい記事があるんだ。」

ふたりはテンプレートの内容をよく読みました。 また黒い扉がありました。

「どうか私たちのためにメールアドレスを教えてください。」

「どうだ、教えるか。」 「仕方ない、教えよう。確かによほどすごい記事なんだ。奥にあるのは。」

二人はナイフで指に傷をつけ、ノートに血でメールアドレスを書いて投函し、扉の中にはいりました。 扉の裏側には、

「住所、氏名、年齢、電話番号、その他個人情報、ことに好きな子の情報はみんな教えてください。」

と書いてありました。扉のすぐ横には黒塗りの立派なポストも、ちゃんと口を開けて置いてありました。紙に封筒まで添(そ)えてあったのです。 「ははあ、何かの記事にメタデータをつかうと見えるね。できるだけ情報がほしい。ことに好きな子の情報が欲しいと斯(こ)う云うんだろう。」 「そうだろう。して見ると解除は帰りにここでやるのだろうか。」 「どうもそうらしい。」 「そうだ。きっと。」 二人は、自分の名前やその他のデータを紙に書いてみんな封筒のなかに入れて、ぱさっとポストにいれました。

すこし行きますとまた扉(と)があって、その前に硝子(がらす)の壺(つぼ)が一つありました。扉には斯(こ)う書いてありました。

「壺のなかのテンプレートを顔や手足にすっかり貼ってください。」

みるとたしかに壺のなかのものはいろとりどりのテンプレートでした。 「テンプレートをはれというのはどういうんだ。」 「これはね、このままだと利用者ページが寂しいだろう。利用者ページにあんまり何もないと見てくださる方に申し訳ないから、その予防なんだ。どうも奥には、よほどえらいひとがきている。こんなとこで、案外ぼくらは、管理者とちかづきになるかも知れないよ。」 二人は壺のテンプレートを、顔にはって手にはってそれから靴下をぬいで足にはりました。それでもまだ残っていましたから、それは二人ともめいめいこっそり顔へはるふりをしながら喰べました。

それから大急ぎで扉をあけますと、その裏側には、

「テンプレートをよく貼りましたか、尻にもよく貼りましたか。」

と書いてあって、ちいさなテンプレートの壺がここにも置いてありました。 「そうそう、ぼくは尻にははらなかった。あぶなくきたない尻を晒すとこだった。ここの主人はじつに用意周到(しゅうとう)だね。」 「ああ、細かいとこまでよく気がつくよ。ところでぼくは早く何か記事を作りたいんだが、どうも斯うどこまでもスタブじゃ仕方ないね。」

するとすぐその前に次の戸がありました。

「記事はもうすぐできます。十五分とお待たせはいたしません。すぐ記事が完成します。早くプレビューボタンを押して確認してください。」

  そして戸の前には金ピカのプレビューボタンが置いてありました。 二人はそのプレビューボタンをぽちぽち押しました。

ところがその画面は、どうも変な表示がされるのでした。 「このプレビュー画面はへんにみにくい。どうしたんだろう。」 「まちがえたんだ。下女が風邪(かぜ)でも引いてまちがえてテンプレートを入れたんだ。」

二人は扉をあけて中にはいりました。 扉の裏側には、大きな字で斯う書いてありました。

「いろいろ記事が多くてうるさかったでしょう。お気の毒でした。もうこれだけです。どうかそのページの最後の草むしりをしてください。」

なるほど立派な鉄の鎌は置いてありましたが、こんどというこんどは二人ともぎょっとしてお互いにテンプレートをたくさんはった顔を見合せました。 「どうもおかしいぜ。」 「ぼくもおかしいとおもう。」 「沢山(たくさん)の記事というのは、向うがこっちに対して呼んでんだよ。」 「だからさ、百科事典というのは、ぼくの考えるところでは、面白い記事を、来た人にたべさせるのではなくて、来た人を記事にして、食べてやる家(うち)とこういうことなんだ。これは、その、つ、つ、つ、つまり、ぼ、ぼ、ぼくらが……。」 がたがたがたがた、ふるえだしてもうものが言えませんでした。 「その、ぼ、ぼくらが、……うわあ。」 がたがたがたがたふるえだして、もうものが言えませんでした。 「ログアウト……。」 がたがたしながらアンサイクロペディアはうしろの戸を押(お)そうとしましたが、どうです、戸はもう一分(いちぶ)も動きませんでした。

奥の方にはまだ一枚扉があって、大きな保存ボタンがつき、白いジグソーパズルの形が切りだしてあって、

「いや、わざわざご苦労です。大へん結構にできました。さあさあ記事になってください。」

と書いてありました。おまけに白いジグソーパズルからはおっさんと少女の青い眼玉(めだま)がこっちをのぞいています。 「うわあ。」 がたがたがたがた。 「うわあ。」 がたがたがたがた。

ふたりは泣き出しました。

すると戸の中では、こそこそこんなことを云っています。 「だめだね。もう気がついたか。最後の確認をしないよ。」 「あたりまえよ。ジンボの書きようがまずいのよ。あすこへ、いろいろ記事が多くてうるさかったでしょう、お気の毒でしたなんて、クソ真面目なことを書くからでしょ。」 「どっちでもいいさ。どうせ私らには、一行も分けて呉(く)れやしないんだ。」 「わかってはいるけど。けれどももしここへあいつらがはいって来なかったら、それは私たちの責任よね。」 「呼ぼうか、呼ぼう。おい、お客さん方、早くいらっしゃい。いらっしゃい。いらっしゃい。草むしりするスタッフもいますし、秀逸認定の用意もあります。あとはあなたがたと、他の記事をうまくとりあわせて、バインダーにはめこむだけです。はやくいらっしゃい。」 「はい、いらっしゃい、いらっしゃい。それとも真面目な記事はお嫌いですか。でしたらこれから削除してWikipedia:削除された悪ふざけとナンセンスにしてあげましょうか。とにかくはやくいらっしゃい。」

二人はあんまり心を痛めたために、アンサイクロペディアはメインページが「」一文字だけになり、チャクウィキはメインページが「バカ」だけになってお互いにその顔を見合せ、ぶるぶるふるえ、声もなく泣きました。

中ではふっふっとわらってまた叫(さけ)んでいます。 「いらっしゃい、いらっしゃい。そんなに泣いては折角(せっかく)のテンプレートがはがれるじゃないか。ただいま。じきもってまいります。さあ、早くいらっしゃい。」 「早くいらっしゃい。ジンボがもうめがねをかけて、テンプレートをもって、舌なめずりして、お客さま方を待っていられます。」 二人は泣いて泣いて泣いて泣いて泣きました。

そのときうしろからいきなり、あのオスカー・ワイルドのような犬が二疋扉(と)をつきやぶって記事の中に飛び込んできました。白いジグソーパズルの眼玉はたちまちなくなり、犬どもはううとうなってしばらく記事の中をくるくる廻(まわ)っていましたが、また一声「わん」と喘いでいきなり次の扉に飛びつきました。戸はがたりとひらき、犬どもは吸い込まれるように飛んで行きました。

その扉の向うのまっくらやみのなかで、「アッー!」とか「ううううううううう!」という声がして、それからがさがさ鳴りました。 百科事典はけむりのように消え、二人は寒さにぶるぶるふるえて、インターネットの中に立っていました。 見ると、名前や電話番号や好きな子の情報は、あっちのホストにぶらさがったり、こっちのポートにちらばったりしています。風がどうと吹(ふ)いてきて、草はざわざわ、木の葉はかさかさ、木はごとんごとんと鳴りました。 犬がふうとうなって戻(もど)ってきました。

そしてうしろからは、 「旦那(だんな)あ、旦那あ」 と叫ぶものがあります。

二人は俄(にわ)かに元気がついて 「おおい、おおい、ここだぞ、早く来い。」 と叫びました。 ★マークつきの帽子をかぶった専門のハッカーが、インターネットをざわざわ分けてやってきました。 そこで二人はやっと安心しました。

そしてハッカーのもってきた一行記事をたべ、途中(とちゅう)で百五十六糎だけロックシンガーを買ってソフィアに帰りました。 しかし、さっき一ぺんおかしくなった二人のメインページだけは、ソフィアに帰っても、記事を解除しても、もうもとのとおりになおりませんでした。