UnBooks:杯の末の葛藤

出典: へっぽこ実験ウィキ『八百科事典(アンサイクロペディア)』
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俺は20代後半のおっさんで黒人だ。日本人ではない。

俺には友達がいた。そいつはなんでも毎年2億円が国から入ってくるという奴で、もう何年ぶりだろう…久しぶりに東京の街で出くわしたそいつにあった。そのとき反射的にそいつはおれに、一緒に酒を飲もうと誘ってきて俺はそのまま一緒にとあるバーまで行った。かつては悪童だった俺とそいつ。そいつは今や日本の伝統文化であるKABUKIという演劇の俳優を演じているらしいということをそいつの口から知った。

俺はびっくりした。なんせ、あいつも俺も同志だったときはヤクザだったからだ。今となっちゃ俺が乗るバイクも原付が良いところだが、あいつは違う。なんせ、KABUKIヤク者だ。日本中では知られている存在で、社会的な名誉もある。恵まれている奴で、俺はそのまま性格も人柄も変わったそいつに嫉妬などせぬように、

昔からの付き合いで仲良く、せめて今酒を飲む時くらいは何も過去のことを蒸し返さないようにしようと誓った。お前とは俺と比べものにならないほどの雲泥の差だ…今のお前と酒を一緒に飲めるだけでも奇跡だ…このまま…一緒に俺と酒を交わしてもいいのかと自分に問いかけたかった。

そんなこんなで、そいつは俺へ勧めてきた酒があった。身体が大きくて虚弱体質の俺を気遣ってくれたんだろう、その銘柄は『養命酒』って奴らしい。さすがに俺でも知っている。百薬の長、万能薬、不老不死の酒、聖水と、日本中の各地で称されてきた程の貴重な薬用酒だ。あまりにもその高い酒はまるで貴族の飲み物。元暴走族の俺にはとても高嶺の花で、そんな酒を飲むことは罪だとさえ感じた。

『いいから、飲めよ。ほら。』

にもかかわらず、そいつは、俺に養命酒というあこがれの酒を気軽に振る舞ってくれた。俺はそいつに何か代償となるものを、命を与えなければならないんじゃないかとさえ思った。少し焦燥感に煽られ、周りをキョロキョロと見渡すと酒をうまそうに飲む連中どもが視野に入った。

『くそうめぇー!』

俺は日本人ではないが、ある程度簡単な言葉なら知っている。どうも少しくだけた言い方で、「うまい」とその男は叫んでいた。しかし、前頭に『くそ』という言葉がついていることに気づいた。

本来その言葉というのは単独で用いては罵り言葉にしかならないのだろうと思っていた俺だが、その時学習した。何かの形容詞の前につければそれは強調の意味になる、と。だって、そうじゃなければおかしい。まさかわざわざ自分で酒を頼んでおいて酒がまずいことを店で叫ぶだろうか。うまいと言っているのだからまずいわけがない。これはうまいということをただありのままに叫んでいるんだと。

この認識に疑いもせず、その言葉の使い方を今、こうして滅多にない養命酒という酒を飲む機会に覚えられたことは幸いだ。きっとイエス・キリストも、仏陀も俺を祝福してくれる。

『よーっし、せっかくりおたんと久しぶりに会ったんだから滅多に飲まない酒を頼んじゃうぞー!』

そして、そいつはウイスキーを頼んだ。

ウイスキー・・・?ちょっと待て。そいつはウイスキーなんか一度も飲んだことはなかった。こうして見る限り、おおかたウイスキーというものがなんなのか理解していないんじゃないかと思った。

俺は飲んだことのない養命酒を、そいつは飲んだことのないウイスキーを。俺はびっくりした。まさか酒を交わすのに、お互いが口にしたことのない酒を注文するとは……!

要命酒の入った杯を片手に、俺はおそるおそる口へ近づける。一方で、そいつはひょいっと杯を持ってはすぐにウイスキーを口へと運ぶ。 『うっわ、なにこれニガ~!』

俺はその時カチンと来た。おそらく『なんだこの酒は』と問われるところ、久しぶりに会う友を黒いという呼び方……しかし、過去の俺は口に対して手を出すような奴だった。でも今は違う…こうして生まれ変わったそいつの目の前にいるんだ。ここで迂闊に手を出してはいけない。

それに、もしかしたら俺の自意識過剰で聞き間違えた可能性だってある。俺は無視した。まさか久しぶりに会ったとはいえ、俺のことを差別用語で呼ぶような奴じゃないと俺はその時信じた。

今一度友を疑いそうになった俺は、自身の心を落ち着かせようと酒を口へ運ぶ。それをよそに杯をテーブルに置いてそいつは話し出す。

『俺さ、毎年2億もらっているわけ。んで実は俺の嫁のことなんだけどさあ、』 『クソアマァ~~~!』

一瞬のことだった。そいつから勧めてもらった酒を口へと流し込むと、今まで飲んできたどんな酒にもない味覚があった。それがとんでもない強さだったんだ。要するに、とても甘かった。階級が底辺の俺は缶ビールやスピリタス、ジンにウォッカにシェリーにボジョレーヌーヴォーや料理酒だった。だからこそ、こんな高級な酒に甘さがあったとは知らなかったわけだが、その甘さはミロとサッカリンを混合したもののようだった。

俺はあまりの甘さに驚いて、先ほど覚えたての言葉を使っていかに甘いということを表現した。するとそれがどうだろう。横にいたそいつがまるでトリスハイボールに出てくるおじさんのように顔を真っ赤にして俺をものすごい形相でにらみつけてきて、テーブルにあったウイスキーボトルをぐいぐいと飲み始める。

『あ”あ”ぁ”~!?ゲプッ 今なんつったよぉ?!』

俺は突然の予想外の反応に吃驚する。何故いきなり切れているんだ?と。そういえば前に、そいつと酒を交わした時は酒癖の悪かったことを思い出した。酒を一滴でも飲み始めると無条件に性格が暗黒進化する、それがそいつの悪いところだった。

俺は久しぶりの対応でどうしたらいいかわからずずっと見つめていると、そいつはテーブルにあった灰でいっぱいの灰皿にウイスキーを注ぎ込んで突然俺の口に当ててきた。カツン、と俺の前歯にあたったことで俺はハッとして灰皿をたたき落とした。そしてつい、条件反射でそいつを叩いてしまった。

『ご、ごめ…』

『んだょ…殴るなんて良い度胸じゃねぇかよ!生意気なことしてんじゃねぇよ!俺はなぁ、毎年国から2億もらってるんだぞー!!!』

俺は店の外まで胸ぐらを掴まれた状態で押し出される。悪いのは俺だ。俺はその時罰を受けようと思った。叩いたのは俺だ。俺が悪かったんだ。でも、螺旋階段のところまで連れ出されて手すりの上に俺の頭がついたとき、俺はまたもハッとした。そいつの目を見ると、今にも俺を階段の上から突き落とそうとしていることに気づく。

今いる階段は7階だ…。落ちれば命はないだろう。そう確信した時、俺は逆にそいつを手すりに押しつけているのが視野に映った。無条件に正当防衛をしようとしてそいつを手すりから突き落とそうとしたんだ。

俺は手を止めた。何秒経っただろう……20秒くらいか?気がつくと後ろから腕を掴まれて取り押さえられていた。俺はこのままでは捕まってしまうかもしれない…第六感が警鐘を鳴らした時、俺は階段を下りて逃走していた。

そして今、どのチャンネルに合わせてもテレビの前に出てくるお前はまるで俺に出頭してこいと命じているようにも見える。これが夢なら、さくらテレビだけで済んで欲しいものだった…俺はとんでもないことをしでかした。

俺はそれから数日して腹をくくり、警察署に自首し、逮捕された。もう、お前とは酒を飲めないかもしれない…なんせ、お前には2億とKABUKI役者ならぬKABUKIヤクザがついているんだからな…なあ、AV蔵。

お酒は高所得者並びに歌舞伎役者らの授乳期に悪影響を与えます。注意しましょう。お酒は飲まれるようになってから。 (Portal:スタブ)