UnBooks:本当はしょっぱいマッチ売りの少女

出典: へっぽこ実験ウィキ『八百科事典(アンサイクロペディア)』
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(騒がしい客席。演目が始まるのを今か今かと待ちわびているようだ)

(やがてブザーが鳴り響き、照明が暗くなり始める。と、騒がしかった声もやみはじめ、やがてスッと静まり返った)

(一拍おき、ゆっくりと幕が上がる。ホールに明るさが戻り、観客にとってはおなじみの出囃子がなり始めた)

(観客の拍手。その中をひとりの噺家が舞台中央に置かれた座布団に歩いてくる)

(噺家はサッと座布団に座る。ちょうど出囃子がなり終わるタイミングで、手にした扇子をピシャリと叩き、深々と礼をした)

毎度、安齋黒冗九(あんさいくろじょうく)でございます。どうぞよろしく。

さて、流行というものは移り変わりが早いものでございますよ。音楽、お笑い、小説、アニメ…。いわゆる「ぽっぷかるちゃあ」なんて申しましてね。まあ「ふとあらわれふときえる。あわのごとし」なんて巧いもんだと感心しきりで。最近じゃアイドルなんてのもさまざま、なんでも49人以上メンバーのいる48人組でありますとか、ひきつり笑いがちゃあみんぐなろりろり4人組などが話題になっておりますな。……まったく見わけがつかないもんで、あたしももう齢かなあなどと思ってるんでございますが。

こちらは少々前の話になりますがね、「本当は恐い童話」なんてものが流行ったこともございました。あたしはたとえば白雪姫なぞ幸せな結末とばかり思っておりましたがそうではないと。なんでも王子様と白雪姫が幸せになった後、王妃さまにゃ「白雪姫の殺害を企てた由」で「靴が履かされた」そうで。なんでもこの靴、真ッ赤に灼けた鉄の靴だったんだそうでございますよ。広い世の中、焼き土下座なんて風習が残る社会もあるようでございますが、それにしてもひどいもの。

あたしの知人にこの話をしましたらね、「そんなものよりね、おまえ、本当はしょっぱい童話って知っているか」なんてことを言われましてね。あたしが「なんだそりゃ。しょっぱい童話っておまえさん舐めてみたのかい」と返すと「ちがうよ、莫迦かいおまえさん。形容詞のほうの"しょっぱい"だよ」とこう来る。そんなの知らんって言うとしたり顔で「ようし、今日は一日付き合ってもらうぞ」とこうきた。…おかげでその知人からいくつかの「本当はしょっぱい童話」を聴いたんでございますが、今日はね、そんな話の中からあたしが「これは」と思うものを一席お付き合いいただきたいと思いますよ。…決して一日ふいにした腹いせ、というわけではござんせん。決して。


あるところに、それはそれはかわいいお嬢さんがおったそうな。人懐こい笑顔とキャラクターに、かわいいんだけども両親が町工場、それも今日日流行らぬマッチ工場の経営者という、親近感を生む生い立ちもあってたいそう人気者。清純派アイドルとしてまいにちお茶の間に癒しを、大きなお友達には萌えおかずを提供していたそうな。

ところがそれは表の話。実はこのお嬢さん、ちょいと困ったお嬢さんでね。両親はマッチ工場の経営者というものの、作ってるマッチは少々特殊なマッチでして、かなりの金持ち、甘やかされて育った。もちろんアイドルになるのだって、もとはと言えばそのコネで叶ったもの。ワガママで高飛車、将来「キャラを作らないといけない場所」ですら「別に。」なんて言い出しかねんなんて言われてた。男だってコロコロ変えて遊んでたなんていうから、「清純派アイドル」としては大変まずい状況ですわな。

そんな彼女にもとうとう年貢の納め時がやってきましてね。

まず母親が男作って出てっちまったんでさ。一般にその理由は公表されなかったけども、どうやら特殊な性癖の父親に嫌気がさしたってことらしい。父親のほうも、マッチ工場畳んで行方をくらましちまった。ま、娘のほうはは必死に「両親に捨てられたかわいそうな子」というキャラを演じたりもしたもんですが。

その甲斐あっていったんは同情的になったお茶の間だけれども、ほどなく「清純派アイドルの外泊!捨てられた私を癒してくれるお兄様」なぁんてお題目で自分の醜聞をスッパ抜かれちまった。…世の中「男性経験が既に終わっている女性を中古として糾弾する事情」なんてものもあるらしいでございますよ。本を破り捨てたり人形を壊したりするってえから恐いものですよ。ともかくこれで大きなお友達が大激怒。かくして「清純派アイドル」としての地位も失っちまったんで。

もとは身から出たサビとはいえ、この情報を漏らしたのは彼女の事務所だって話でね。「彼女を使わないで済むようにするための魔法を唱えたんじゃねえか」という噂でもちきり。噂を裏付けるかのように事務所も売り出しをやめたりしたもんだから、落ちぶれるのもあっというま。ちょっと大人な大きなお友達の間じゃ「妄想じゃないホンモノのおかずを提供する日も近いんじゃ」という話も出始めた。

でもまあ、腐っても元アイドル、性格はともかく見た目はバツグン。彼女がはべらしていた男の数だってそりゃ大したもの。それまでの稼ぎはあるし、加えて消えた父親が残したマッチもそれなりあった。ちやほやされた過去に未練はあれど、それを売れば生活にも困らない。その日も、前もって懇意にしていてくれた男を「すぐいる?」なあんてマッチと体で呼び出して、その日の稼ぎを得ようとしたんでございます。

ところがその日はいつもと違った。いつものようにマッチを擦って甘い夢をみながらお互いを満たすまでは良かった。ところが、相手が急に泡吹いて倒れちまった。これで慌てたのが娘のほう。「こんなことが世間にバレたらアイドルとしておしまいよ……!」これもアイドルとしてのプライドでしょうかね?ともかく、ほうぼうに連絡をし、こいつを隠しちまおうと画策し始めたのでございます。

「ねえ、アンタ第一発見者になって代わりに逮捕されてくんない?」「無理に決まってんだろボケ」
「この薬抜く方法ないかな」「あるわけねえだろクズ」
「アタシ逃げるわあとよろしく」「うっせえカス」

まあまあ、人ひとり死んじまっちゃあ大事でございまして、ほどなくお縄をちょうだいするハメになったのでございます。ところが反省する様子はみじんもなし。それどころか裁きのための協議の場じゃあ、

マッチは相手が持ってきたんです
見殺しになんてしてません。ちゃんと助けようとしました!
両親に捨てられ、しっかりした生活をおくるためには仕方なかったんです!

なあんて抗弁する始末。集まった聴衆もほとほとあきれ気味。これは重罪が確実だろうという空気になっていったのでございます。


そして裁きが下される日。


「判決を言い渡します。無罪とします。」


なんとまあ!娘はよっしゃとガッツポーズ。聴衆の間にはざわめきが広がり始めます。ところが、この話には続きがあったのでございます。

「しかしお嬢さん、聴けば非常に苦労されている身であるとのこと。幼いお嬢さんが生活していくには大変だ。でもよかったですね、幸運にも寝食、さらに働き口もあるとてもとても行き届いた宿場に空きがあります、そこに入るための手続きをしておきましょう。それから 、このマッチ。火遊びはいけませんね。これを処分するにも相当な費用がかかるでしょうが、あなたはお金をお持ちのようだ。それを使って代わりに処分しておきましょう。今回この件に関する処理は以上とします。それでは、閉廷!」

よっしゃ無罪放免と喜び勇んでいた娘はよよよと泣きだし、その涙もしょっぱく…とと、これがホントのしょっぱい話。ありがとうござんした。

(噺家、深々と礼。同時になる出囃子と拍手。噺家ははけていき、幕は下りる―)


  • マッチ売りの少女 - 本来のマッチ売りの少女はこういう話でござい…っとと、ここはあんさいくろぺでぃあでやんしたね。ちゃんとしたものがみたけりゃ真面目な方をみておくんなさい。
  • 押尾学 - はて。あたしは現実の話をした覚えはないんでございますが。だいたいこんな童話を実際に言ったりやったりするような大人がいるはずもないとあたしは思いますがね。