UnBooks:マッチ売りの少女

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マッチ売りの少女[編集]

今となってはもう昔のこと。あるところに、1人の少女がおりました。家族とはもう遠く離れてしまいました。しかし、家はありました。

少女は、ある種の紙を買い漁り、それを使い込むことが趣味でありました。芝居小屋に行っては、若くカッコいい男の子が甘美な声で歌ったり、ダンスをするショーを観ては熱狂するのです。人生において密やかなことにして、何よりの楽しみでした。

ある日、少女がいつものように紙売り屋を物色していると、何やら路上が騒がしくなりました。突然のことです。何だろうと思い駆け寄ってみると、少女と同じ年頃の女の子が倒れていました。名の通った仕立て商のドレスを身に纏っており、どう見ても一般市民ではありませんでした。

大変! すぐに助けなきゃ!

すぐに少女は馬車乗り学校で覚えた蘇生術を試み、すぐに街の衛兵を呼んで病院へと連れて行かせました。


女の子は一命を取り留めました。

「ありがとう。助かったわ。」
「いいえ。」

そうにっこり少女が微笑むと、女の子はポツリと呟きました。

「私ぐらいの年頃の娘と最後に会ったのは、もう何年くらい前のことかしら……」

訊くと、女の子は大変な要人であり、がんじがらめに保護され誰も友達がいないようでした。少女は女の子と友達になることを誓いました。


いつもは、少女はメイドとして働いておりました。

少女は同僚たちとは実に人並みな付き合いをしていました。人並みというだけあって、表面上こそ仲良さそうに見えましたが、実にそれは浅い関係でした。少女はこの場においては、内心何かの違和感を抱いていました。

それに反するかのように、要人の女の子との関係は日々親密なものとなっていきました。驚くべきことに、女の子は少女と共通の趣味を持っていました。女の子はまだ入院していましたが、病状について看護婦さんに尋ねると、大丈夫ですよと優しい微笑みをもって応えられました。退院した暁には、紙は女の子が全て手配するから一緒に芝居小屋へ行こうと約束しておりました。


ある日、いつものように少女は病室へと入りました。もう秋分を過ぎた頃で、いつもと同じ時間だというのに窓から差し込む光は徐々に暗くなっていました。眩しい西日で、女の子の顔には集中治療棟の影が差し込んでいました。

「私、もう長くないの。」

少女の全身から力が抜け、早生みかんが詰められた赤い網袋が落ちました。床にはみかんの果汁と果肉がいくらかのシミを作っておりました。

病室からは嗚咽の音が漏れておりました。静かになると、女の子はこう言いました。

「最後にあの人のステージが見たい……」

毎日紙売り屋を訪れては品物を物色し、一週間に2枚は紙を買っている少女があの紙を持っているはずがありませんでした。しかし、人気なので1枚しかありません。

「命の恩人だもの……。お礼は幾らでもしないと……」

少女は丁重に断りましたが、うんともすんとも動じません。結局、その紙は100万円をその対価として、女の子の手に渡りました。


それから二ヶ月は経ったでしょうか。この間、少女は面会を拒否され続けました。女の子の病状が思わしくなく、会える状況には無いということです。何度も足繁く通ったものの、いつも同じ結果でありました。それは、寒い冬へと突入してからしばらくのこと。女の子と会ったあの場所です。衛兵が少女に駆け寄りました。

「お前、所まで来なさい。」

それは、あの時のお礼ではありませんでした。

「この方に、この近藤真彦のディナーショーチケットを100万円で売ったのはお前か!」

開いた口が塞がりませんでした。すると、衛兵はブーツで机を叩き、より一層強く少女を尋問しました。女の子は、実の所少女を厭っていたのです。嫌悪感を示す気力すら無かったのです。テーブルの上の書面には、「東京都迷惑防止条例」、あるいは「ストーカー行為等の規制等に関する法律」といった語がありました。

事情を説明し、少女は釈放されました。夜です。詰所の回りは明かりが少なく、どこの馬の骨か知れない者が潜んでいてもおかしくありませんでした。


次の朝、少女は仕切り直していつものように職場へ赴きました。しかし、その努力は無駄でありました。

「ええー! あの女が!」
「重病患者に付きまとってダフ屋ねえ。怖!」
「ほんとほんと。ジャニオタは違うわね。」
「でもあいつの年頃なら、いくらでもいそうじゃないの? マッチファン。」
「それがね。毎日チケットぴあに通ってたんだって。窓口で働いてる友達が言ってた。」
「ああ、さっきの話ね。でもあれ位なら余裕でファンクラブに入ってるんじゃないの? ネットで済ませてそうだけど。」
「もちろんよ。ファンクラブ優遇でネットで買って、さらにぴあ限定特典付きのチケットも買うんだって。同じ公演のチケットを3枚購入は当たり前らしいわよ。」
「釈放されたけど、他でもやってるんじゃないの?」
「あそこの警察、基本やる気ないし。」
「ありえねー。ヤバイ! チョーウケル! 来年夏にはあいつのデスクのうちわに筆ペンで、近藤真彦って書いてやろうかしら。」
「でも近藤真彦って最近聞かないよね。でもチケット買いまくってたんでしょ? 滝沢秀明でもおかしくないでしょ。」
「いいや、名前知らないけど、あのフジのアナと酒飲んだ奴じゃね?」
「そもそも来年夏まであいつがいるなら、私ここ辞める。」
「同感。」

まるで彼女らの意見を配慮するかのように、その日雇用主は少女をクビにしました。


失業保険は何とか確保できました。しかし毎日のように紙ばかり買っている少女に、貯金などあるはずがありませんでした。今月支払われる給料の大半は、既に登録されている男の子たちの勝手連から天引きされ、消えていきました。あの100万円も所詮は死に金。数十種の初回限定シングルやCD-BOX、そしてDVD-BOXへと替えられました。もう家賃を払うお金もありません。食料はもう底を尽きました。

そして、真冬に差し掛かったある日のこと。少女は最後の力を振り絞って化粧をしました。動きやすい、しかしそれなりにいい一張羅を着て家を出て、電車を乗り継ぎました。日も暮れた後です。少女は電車を降りるとこの上ない満面の笑みとなり、目の前にそびえる巨大な建物へと向かって突き進みました。その満面の笑みの中、力が抜け、地へと伏したのです。少女からはもはや何の音も聞こえませんでした。この齢38歳の少女の手には、東京ドームで開催されるジャニーズカウントダウンライブ2005-2006のチケットが、しっかりと手に握りしめられておりました。

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