UnBooks:クトゥルー

出典: へっぽこ実験ウィキ『八百科事典(アンサイクロペディア)』
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本校に水泳部が存在しない以上、実質のプールの支配者は彼女と言って差し支えはなかろう。放課後1人泳ぐ様は目立つというよりは、恐ろしくその場と馴染み、その状態こそが自然体と言わんばかりであった。その存在を知覚していたのは私を含め幾ばくのものしかなかったが、本校の現状を鑑みれば当然とも言えた。

彼女は少女然とした小柄な、語弊を覚悟で言うのならば一種の幼児体型であり、その腰にかかろうかという長髪と相まって華奢な人形とでもいうべき風貌を持ち合わせており、男性ならば自ずと保護欲を触発されるものであった。特筆すべきは、吸い込まれてしまいそうな(一種を思わせる)深い蒼の瞳を持ち合わせていることであろう。不可解なことだが、そんな彼女が自身のクラスに溶け込まず、1人行動する様は放課後に行われる"部活"と同じ趣を感じさせた。

プロローグ[編集]

新学期が始まり、新たな心持ちでその一日を送るべく意気込んでいた私だが、生まれもっての怠け癖が幸いし放課後にはそんな気持ちなどは霧散しており足早に学校を去ることにした。しかし、何の因果であろう今まで一度たりとも足を運んだことがない敷地内の運動部棟へ気紛れ行ってみることにした。

走り続ける部員を尻目に私はプールをその視界に捕らえた。自身、中学校までは水泳をしていた身であったためか、気になった私はプールサイドへ歩を進めた。

名状しがたい感覚が胸を襲った。

私は、彼女に出会ってしまったのだ。


追憶[編集]

練習に付き合うようになって一ヶ月が経つ。

事実、彼女の上達ぶりには目を見張るものがあった。前世は魚か何かの生まれかわりでは無いかと疑う程だ(彼女にそれを話すと決まって機嫌を損ねてしまう)。

私には耐えられないものが一つあり、それは彼女の格好に他ならず、学校指定の水着はその容姿と相まり理性を侵食し続ける麻薬と言っても差し支えなかった。私は何時も自己を主張する分身を諫めるのにその精神を磨り減らせる必要があった。

某日、そんな私自身に気づいた彼女は(免疫がないのか)ただ赤く俯くだけであり、身勝手にも私は彼女の意を汲んだ気になり彼女の唇を奪う始末であった。再び自身を取り戻した際は、涙混じりで悲鳴を上げる彼女に熱を内包させた後だった。

長い平穏を破り私達は変化を遂げた。私が変えたと言うべきであろうが、変化は女性の言に疎い自身にも理解の範疇を超えるものであった。嫌悪され警察沙汰にでもなるものと想像していたが、彼女は私を優しく包みこむのみであった。彼女の笑みには家族に見せる無垢なものと共にどこか自身への責め苦とも取れるものを内包していたのだが、私は機微に気づく心的余裕を持たずただ彼女の寛容な心に涙した。

変化したのは私達の関係のみではなかった。彼女はともかく私の上達も日を追うごとに明らかになっていった。彼女への負い目が招いた結果であるかはわからずとも、彼女がどこか嬉しそうなだけで私には充分であり、満足だった。

エピローグ[編集]

頬を染めつつの彼女の発言に、赤面したのはむしろ私だった。

使用人しかいないと、か細い声で囁く彼女に対して私ができる選択肢は頷くことだけであった。彼女の実家に行くとあって心騒がされるのが当然と言える。

しかし何であろうか、それ以上に安心を覚える私がいた。

自身の胸を占める彼女への想いが思いのほか強かったのであろうと、手をとる私に微笑み返す彼女を見ているとそんな事ばかりが頭をよぎった。

関連項目[編集]

Wikipedia
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