UnBooks:あず

出典: へっぽこ実験ウィキ『八百科事典(アンサイクロペディア)』
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(騒がしい客席。演目が始まるのを今か今かと待ちわびているようだ)

(やがてブザーが鳴り響き、照明が暗くなり始める。と、騒がしかった声もやみはじめ、やがてスッと静まり返った)

(一拍おき、ゆっくりと幕が上がる。ホールに明るさが戻り、観客にとってはおなじみの出囃子がなり始めた)

(観客の拍手。その中をひとりの噺家が舞台中央に置かれた座布団に歩いてくる)

(噺家はサッと座布団に座る。ちょうど出囃子がなり終わるタイミングで、手にした扇子をピシャリと叩き、深々と礼をした)

毎度、安齋黒冗九(あんさいくろじょうく)でございます。どうぞよろしく。

みなさんね、「あほの子」というのが最近の流行らしいんでございますよ。あたしもついこのあいだ知ったんですがね。なんでも「ゆっけ」だかなんだかっていう「あほの子」が最近「あにめ」になったとかで。え、「それはこの噺を書いているやつの趣味だ」。…なるほどおっしゃるとおりで。まったく困ったものです。

まあまあ、「あほの子」というのは何も最近出てきた話じゃございませんで、落語にもしばしば「あほの子」というのが登場するんですよ。そんなわけでどうぞ一席お付き合いくださいませね。


ある時代、秋葉原というところにひとりの男がおりましてね。男は、まあ、いわゆる「をたく」というやつでして。この男、みために違わず萌えあにめなどが好みであったと。立派に『大きなお友達』であったわけですな。こいつをまあ、そのまま「をたく」と呼ぶことにしましょうか。

そこへ、最近あにめが好きになったという、まあ、いわゆる「にわか」ですわな、そういう男が来た。この「にわか」、おつむのほうがとんと弱くて、なんでも人に聞こうとするし、そのうえ聞いたことはなんでもホントだと信じ込んじまう、まあ大変困った「あほの子」であったわけですな。で、をたくの先輩たる「をたく」に こう聞くわけです。

「をたくさん、やっぱり最近はあずさが一押しだと思うんです!」
「なんだね。あずだよあず。あずさなんて呼ぶやつはいないよ」
「??? なんであずなんですか?あずにゃんではなく?」
「お前ね、あずだよあず。なぜそう呼ぶかわかるかい?」

そう、賢明なをたく諸氏にいたっては、ことこの件に関しては「にわかのほうが正しい」とお分かりでしょう。しかし、この「をたく」、性根が悪い。普段「なぜなぜ?」と聞かれまくって辟易し、「ぐぐれかす」ともいいそうになっていた時分。ここはひとつ担いでやれと、信じ込みやすい「にわか」をだまそうとしたわけでございますな。

「にわか、たとえばだね。俺とお前がそこいらであずさに会ったとしよう。どうするかね」
ぺろぺろします」
「そうだろう。だがだね、あずさはひとりしかいない。これは俺がぺろぺろするあずさだから、お前の分はないよ」
「ええーっ」
「あのあずさはね、俺のところへあーーーーーと寄ってくるんだよ。だがね、あずさのすごいところはそこじゃない。お前さんにももうひとり、ずーーーーーとぺろぺろされにくるんだよ」
「ほうほう」
「いいかい、ふたりいても平等にぺろぺろさせてあげたい。だからあーーーーーときたらずーーーーーだよ。これで『あず』だ」
「なるほど!」

なるほどをたくってのは気持ちが悪いねえ。あたしにはなにがなにやらわかりませんよ。まあしかしだ、この話の何に得心したのか、「にわか」は去っていった。「をたく」のほうはうまくだましてやったとドヤ顔ってものですよ。


人間にはいくつかね、困った性分がありますもので、その中に「知識をひけらかしたくなる」というものがございますよ。それでドヤ顔決め込もうという人間は山ほどいるとみなさまもご承知の通りかと。このね、「にわか」もそうした人間でね。まあ、そういう癖をもっているからこその「にわか」でもあるわけでございますが。

「をたく」と「にわか」には共通の友人がおりましてね。「をたくのだまし癖」も「にわかの聞き癖」も知っているような人間でありました。こいつはなかなかのキレ者でね、話の端々からその背景を分析したりするようなやつだった。彼もまあ「にわか」には慕われておったわけでございます。

今日も「にわか」が友人のもとを訪れるわけでございます。

「友よー、いい話を聞いてしまったんだ!」
「なにか、今日もをたくのところへ行ったのか。やれやれ。今度は何を聞いてきたんだい?」
「あずだよ、あず」
「あず?あずにゃんのことかい?」
「あずだよ。あずにゃんなんていうやつはいないよ。その理由を聞きたいか?聞きたいだろう?」
「(こいつウゼー…)」
「たとえば俺とお前が歩いていて、あずがいたらどうする?ぺろぺろするだろう?」
「お前はそうだろうな」
「そうしたら俺だけぺろぺろできる。でもこれではお前に悪い、が、あずはあずーーーーーっと俺のところへくるんだ」

ここで「友人」はピンときた。なるほど『つる』に引っ掛けようって魂胆で「をたく」はしかけたか。それではと聞き返した。これで、「にわか」は困り果てるはずだ。

「ほう。じゃあ俺のところにはあずはなんていってぺろぺろされにくるんだ?」
「にゃん!」


ありがとうございました。

(噺家、深々と礼。同時になる出囃子と拍手。噺家ははけていき、幕は下りる―)