リレー小説・第四部

出典: へっぽこ実験ウィキ『八百科事典(アンサイクロペディア)』

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 童の頃から、お前は青竹のようなやつだといわれてきた。
 母親や父親ならまだしも、下女にもそのように言われたことがある。
 幼い頃の私はそれがほめ言葉だと思い、ふんぞり返っていた。それを見た大人たちは私を見て「ますます青竹のような奴だ」と口々に私を褒めた。

 あれから20余年が経つが、今私は目の前の女に、
「あなたは無謀な人ね」
 と罵られている。何を言うか、青竹のようだと褒められた私に対して何たることか。
 背の低い彼女は私に対して少し上目遣いにしている。しかし昨日よく眠れなかったのだろうか、目つきはあまり良好とはいえない。
 何かを舐めるようなその視線は、一見しただけで私を射殺すような気迫すらもっている。
 普段はあれほど柔和であった彼女の目がこれほどに悪いのは、やはり何か不調なのであろう。
 私は余裕を持った態度でもって、彼女に体調についてたずねた。
「もういいわ、あなたはそういうことしかいえないのよ。私はもうね、疲れたのよ」
 成る程彼女の体は深刻に疲労しているようである。ならばこれ以上話すよりも彼女は病院なりに行かねばならぬ。
「そうね、病院にいくわ。あなたは見舞わなくていいわ、面会謝絶になりそうだし」
 おお、それほどに重い病なのだろうか。彼女はそういって額に軽く手を当てながら、喫茶店を去っていった。
 浅靴(バンプス)の足取りはやや重く、重いため息をついて去っていった。
 一人喫茶店に残った私は珈琲をすすり、その背を見送った。
 ついぞその後、彼女に逢うことはなかった。

 それより二ヶ月のち、私は一杯七銭のシチュウを求めてその喫茶店に向かった。
 かつて横浜で一杯三銭五厘のシチュウを食べたことがあり、私はその味を忘れたことがなかった。
 20と半ばの生涯で食い物ひとつにあれほどの衝撃を、私は経験したことがなかったのである。牛乳とはかの様に美味になりうるものかと、心底驚き大声を上げた。
 あまりの私の反応に感激したのか居た堪れなくなったのか、店主直々に私にしづかにするように言いつけられたほどである。
 その倍の値を張るシチュウを、このダイアモンド珈琲店なる喫茶店はここ東京浅草に出そうというのである。遠く聞こえたうわさに私は軍靴を鳴らして路を大またで歩く。
 すれ違う馬車に目を配りながら、ふふんと鼻を鳴らす。
 未曾有の衝撃を与えたシチュウの上を張るシチュウに立ち向かう、今の私の上機嫌に敵うものはないのであるから。

--八月十五日 2007年10月22日 (火) 21:15 (JST)

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